関東大震災と天譴論(てんけんろん)

 1923年(大正12年)9月1日昼、マグニチュード7.9の巨大地震が関東地方を襲った。振動は10分も続いた。死者行方不明者は約15万人。横行したのは天譴論。
 地震は天から地への譴責だ。天は日本の情けない現状に怒りの鉄拳を下した。
 真っ先に使ったのは80代の渋沢栄一らしい。近代日本の資本主義の父とよばれた。彼は、殖産興業政策にかかわった。起こした会社は500以上。人は我欲にばかりとらわれては、人心は荒れ社会は乱れると考えた。経済には、倫理が必要だ。利益追求の片側には喜捨の精神が伴わなければならない。利益の社会還元に努めた。
 営利と慈善を均衡させ、欲得と道徳を調和させることが生涯の目標だった。
 日露戦争第一次世界大戦で戦争特需に沸いた。公徳心や団結心や相互扶助の精神はもはや伴わなかった。解体の危機。そこに震災が起きた。
 これが天譴でなくてなんであろうか。
 これに反発もあった。  芥川龍之介はエッセイで、お天道様は絶対に公平で無私のはず。現実はピンピンしている守銭奴もいれば、人の世の楽しみも知らず焼け死んだ貧しい子どももある。      

第54代会長 谷口 弘